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Seasonal gift / Autumn 2023

山を歩く。それはここに住む人々にとっては、山を食べるということらしい。

トレイルに入ってほどなく、案内役のACは腰を屈め、ベリーを積んでは口に運んだ。

「この黒い柔らかい身はブルーベリー。甘くて美味しいわよ。赤い身のほうは、皮は食べられないけど酸味が効いててこれも旨い。硬い黒いのがあるでしょ?あれはまずいけど、毒ではないから安心して。」

赤いロングパンツに白のニットセーター。そこにガチ登山用のバックパックと登山靴という出立ちでズンズンと進んでいく。

数十分ほど歩いただろうか。そこには今まで見たことのない開けた景色と、山々の間から氷河の一角が覗いていた。

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ノルウェーに来ている。目的は、自然環境の僻地 of 僻地に展開している建築を見ること。

しかも、今、世界で最も先進的と言っても良いであろう建築家集団、Snøhettaの案内付きであるから贅沢この上ない。

先程歩いたトレイルの麓には、同社のシニアアーキテクト、ACがデザインした「山小屋」が建つ。

山小屋という単語につきまとうイメージ。誤解を恐れずに言えばそれは、すごく狭く、ちょっと不潔で、少し臭う、といったところだろうか。

登山には興味があるものの、シャワーを浴びないと寝れません!という意外にも綺麗好きな私にとって、どうもこの山小屋泊というのは精神的ハードルが高すぎる。よって、いっこうに山に足が向かわない。

しかし、上記に同意してくれる皆様方。このノルウェーの山小屋を見て欲しい。

首都オスロから飛行機で1時間。そこから車で1時間半。車を止めてからさらに歩いてアクセスするこの深い自然に立つノルウェー式の山小屋。

とにかく綺麗で、格好良い。周囲に強く吹く風をうまく逃すために設計された五角形の建築物が、建物同士の間に広がる空間を広場として人々が集えるように、あえて空間を残して4棟配置されている。

ACが建物の説明をする時に何回も口にしたFootprintという単語。日本語に訳すと「足跡」であるが、こと建築の文脈で使う時、この単語には人が残した「爪痕」、というニュアンスが含まれる。

「FootPrintを最小限にしたかったの。ここの自然をなるべく傷つけないように。地面を平さず、建物は杭で浮かせるように作ったわ。」

もう一つ、繰り返し発していた言葉がPrecise。「正確な」という意味のこの単語はただ正しいという意味ではなく「周囲の環境にぴったりと馴染むもの」という使い方をしていた。

爪痕を残さず、周囲の環境に溶け込む建築。

なんだ、目指すところはSANUと一緒じゃないか。

4つ並んだ建物のうちの1つはドミトリー。Cross Laminated Timber、通称CLTと呼ばれる新素材で作られた木造建築の中身は、ログハウスとは違った洗練さを身に纏う。

それぞれのベッドの上に配置された通風口。他の人と同じ部屋でも、外のフレッシュな空気と共に目覚められるように。人の背丈ほどある大きさの窓からは、雄大な外の景色が開ける。

これは、いわゆる相部屋でも気持ちよく寝れそうだ。

もう一つは、レストラン棟。言葉は要るまい。写真をご覧あれ。

当然飯も、うまかった。

そして最後の建物は、一棟貸しの宿泊棟とシャワー棟。この棟だけ、雪が降り積もる厳しい冬でも泊まることができる。しかも、冬季はオペレーションのスタッフが全員いなくなるにも関わらず。月15,000円ほどの会員費を支払うことで、全国にあるこのような宿泊施設に通年で通うことができるらしい。鍵は物理キーで、家に送られてくるとのこと。

この施設。なんとノルウェーのツーリスト協会が運営しているものなのだ。日本で言うところの第三セクターのようなものだろうか。

行政が主導でやっているとは思えない洗練されたデザインとオペレーション。これは、山に登る人の数が多いことにも頷ける。

東京から行きやすい自然立地を探してきたSANUだけれど、ここらで視野をびゃっと大きく広げていきたいと考えている。

SANUという事業を通して日本の自然を見てきた私たちが気付いたこと。それは、この国に広がる自然の多様性。その懐の深さと、広さ。そして美しさ。

粉雪降る北海道の雪山から、奄美大島の暖かく碧い海まで。世界に類を見ないほどの美しさがこの島には詰まっているんじゃないか、と目を見張る日々を過ごす。

SANUがあったから、ここの海に、山に、川に出会えた。

そうやって自然に恋をする人を、心動く瞬間を、増やしていきたい。

来年、私たちはNorth to Southというコンセプトを掲げ、関東から全国へと広がる。

そしてさらに!

そこからもう一歩。より深い自然に足を踏み入れるためのミニマルな装置「Expedition Cabin(仮)」なるものをこれから設計していこうと思うのです。

Column by Hilo Homma, SANU Founder & Brand Director