SANUをつくる人 vol.2 |SANU CABIN MOSS 自然との調和を目指す新型キャビン|ADX・安齋好太郎

⼈と⾃然が共⽣する社会の実現を目指し、リジェネラティブなビジネスに取り組む〈SANU〉。その活動は、ブランドビジョン『Live with nature. /自然と共に生きる。』に共感し、力を貸してくれるパートナーたちの存在に支えられています。『SANUをつくる人』は、〈SANU〉の大切な仲間である彼らにスポットライトを当てる特集。〈SANU 2nd Home〉がいかにしてつくられているか、その一端をご紹介します。

第2回は、ひきつづき建築チーム〈ADX〉代表・安齋好太郎さんのインタビューをお届けします。〈SANU 2nd Home〉を象徴するキャビン〈BEE〉を手がけた安齋さんが、ブランドのネクストステップとして〈MOSS〉を設計。自然への距離をもっと近く、そして共存、調和を目指す新型キャビンの開発の裏側に迫ります。

〈MOSS〉とは、新しい生き物

「SANU 2nd Homeのサービス開始とともに運用されてきたキャビン〈SANU CABIN BEE〉が誕生して、2年が経った頃。キャビンそのものを、もう一度見直してみようと考えました。ユーザーの滞在回数が増えて、拠点も広がり、自然へと足を踏み入れていくきっかけが多くなった。そうすると、もっと自然との距離を近づけていけないかという欲が出てきました」。

〈BEE〉は、自然のなかで安全に滞在する秘密基地としての位置づけだと、安齋さんは話す。そのうえで、さらにもう一歩、ユーザーにとって新しい自然体験ができるキャビンをつくれないかと考えたのだ。

「〈MOSS〉には、外に出たくなる大きい窓や、バルコニーに直結するエントランスといった、〈BEE〉にはなかった設計を取り入れています。このあと詳しく〈MOSS〉について紹介しますが、伝えたいのは、〈MOSS〉は〈BEE〉のアップデート版ではないということ。生き物でいえば、まったく違う種類が誕生したと捉えてほしいんです。

言葉にするのが難しいのですが、ひとりで遊ぶよりも、いろんな仲間と遊ぶ方が楽しいし、その面白い仲間はひとりよりふたりの方がいい、というように、キャビンにも多様性があっていいんじゃないかと考えたんです。違う生き物や種族がいた方が面白くなるはず。どんどん仲間が集まってきて、今日は誰と遊ぼう、明日はあの彼と遊ぼうといった選択肢が増えるという展開は、いまのSANU 2nd Homeに必要なのではと」。

その背景には、SANU 2nd Homeのサービス拡大やユーザーの滞在や体験の進化がある。とくに、ユーザーから提供されるレビューは大きなヒントになっているという。

「『外に一歩踏み出して、お花を摘みました』というレビューを見ると嬉しくなる。もっともっと、外に出るきっかけを建築からつくっていきたいと思うようになってきた。きっと、長期でSANU 2nd Homeに通ってる人は、どんどん自然を理解して、素晴らしさだけじゃなくて、怖さみたいなものも感じ取っているはず。

だからこそ、次のステップを提供できる建築をつくりたかった。自然と触れ合うきっかけをつくりたかった。それが、〈MOSS〉のはじまりだったんです」。

滞在をデザインすること

〈MOSS〉には、外へと意識が向くデザインが、随所に施されている。そのひとつが、大きな窓だ。室内の全てのポイントから外を見ることができる。キッチンに立っていても、ベッドに横たわっていても、ワークスペースに座っていても、つねに外の自然が目に入る。

「エントランスとバルコニーが一体型になっているので、外との距離も近くなった。室内から外を眺めていて、気になる木があったらそのまま歩いて見に行ける。これは〈BEE〉にはなかった、新しい動線です。

そして、見上げてみると、天窓から空を観察することもできる。天気がよければ、光が差し込んでくるし、雨が降っていればその音を感じることもできる。天窓は開閉式なので、風の流れを感じることもできます。視覚だけでなく、五感でも自然をとらえられるような機能をちりばめているんです」。

外への意識だけでなく室内の空間にも、自然を感じる工夫が見られる。そのひとつが、多様な木材をつかったインテリアだ。

「〈BEE〉が生まれてから2年で、森に携わる人との接点も増え、『できれば我々の木も使ってほしい』という声をいただくことが増えました。〈MOSS〉には、構造材には福島の八溝山系と京都の北山杉、床材は会津若松市の栗の木、家具の仕上げ材には北海道のニレ、デッキには宮崎の肥沃杉といったように、全国各地のさまざまな樹種の木材を使わせてもらっています。この空間には、SANUの活動を応援してくれる、全国の人たちの思いが詰まっているんです」。

SANU 2nd Homeが発信してきた情報をキャッチし、共感してくれる人と出会えたこと。そんなつながりも、〈MOSS〉という新しいキャビンの実現に大きく寄与しているのだ。

「ちなみに、〈MOSS〉の名付け親は、本間さん(SANU Founder / Brand Director)。派手に見せたいわけではないし、森の一部になる、擬態するような建物になったらいいねということを彼と話していて、生まれた言葉なんです。ここが苔=MOSSのような存在であってほしいし、動かなくても必要な存在としてあってほしいという思いからですね」。

〈MOSS〉が広げる、環境への適応範囲

現在、SANU 2nd Homeがサービスを提供しているのは、関東圏が中心。しかし、全国へと拠点を広げていくにあたり、建築の耐候性にも目を向ける必要があった。〈MOSS〉を設計するうえで、冬の豪雪や夏の暑さに耐えられることが条件となったのだ。

「今は関東から2、3時間で行ける場所がSANU 2nd Homeのサービスの中心だったんだけど、日本にはまだまた訪れたい、訪れてほしい自然がたくさんある。自然って関東だけじゃないよねって。北は北海道、南は沖縄までたくさんある。そこで、拠点を広げることを考えたときに、〈BEE〉では対応できない土地にもセカンドホームをつくりたかった」。

安齋さんは、どんな自然でも安全に滞在できる建築をつくることが、ADXの仕事だと話す。多様性に富む日本の環境を鑑み、〈MOSS〉は、積雪は3.5m、気温はマイナス20度から50度まで対応できる設計に挑戦した。

そのうえで、木材コスト比率を39%まで上げることにも成功。通常の木造建築では、木材コストは8%程度が一般的。実際に〈MOSS〉の室内に足を踏み入れてみると、ほとんどが木でできていることがわかるだろう。

「木材コストの割合を上げることで、森が循環する仕組みを建築からつくれないかと考えた。本質的に木をたくさん使うことで、林業に携わる方たちが豊かになるし、森に代謝が起こるはず。木を使うというコンセプトも大事だけど、物質的なボリュームも大事だと思っています」。

ユニット構造と自然への負荷を抑える工夫

〈MOSS〉の面白さのひとつに、「サイズ展開」がある。〈BEE〉とは異なり、ユニット構造を採用することで、土地の特性やサービスの目的にあわせて、居住空間の大きさを調整できる可能性を秘めているのだ。

「〈MOSS〉は、2.7mのグリッド構造を採用しています。メインの居住空間をベースに、左右に継ぎ足すことで、S、M、L、XLというふうに、バリエーションを持たせることができます。

これが何を意味してるかというと、すごく素敵な森があるとして、そこに〈MOSS〉を立てたいと考える。でも、大きな建築では木を切らなきゃいけない。ならば、Sサイズにして、自然への負荷を抑えることができる。自分たちが小さくなることで、森を傷つけないということが可能になるんだよね」。

同時に、家族や大人数で滞在したいユーザー向けに、キャパシティの大きなXLを提供することも可能だ。安齋さんは「建築が資本主義で変わるのではなくて、自然を中心に変えていくべき」と考えたのだ。

「SANU 2nd Homeのキャビンは、本当に森と会話して建築を建てていることが〈MOSS〉の建築思想からも見えてくると思います」。

さらに、建物と地面の接点である杭にもアップデートを加えている。〈BEE〉はこれまで6本だったが、〈MOSS〉は8本に。本数は増えたものの、径を細くすることで、環境への負荷を抑えている。

「積雪や風に対応することも目的だったんだけど、設置面積は敷地に対して1%程度。地面にソフトタッチしてる感じです。〈BEE〉と同じく、高床式の工法は残しつつ、風や雨にもしっかり耐えられるように改良しました」。

また、建築による自然への影響を最小限にすべく、雨の流れにも配慮している。

「雨の流れをデザインしました。どういうことかというと、都市と同じような形状で建築をつくってしまうと、雨をひとつに集めて処理するような形になってしまいます。でも、自然にとってそれは嬉しいことではない。雨樋で1ヶ所に水を流すのではなく、葉っぱのように雨水を分散させることで、雨水によって土砂が削られたり、木々に必要な水やミネラルをしっかりと土に還すことができます」。

〈MOSS〉のユニット構造、設置面を減らした細い脚部、雨をそのまま森へと還す設計。これらは、自然と建築のバランスを取るためのものだと、安齋さんは話す。

「人間が無理をすると自然が弱くなってしまう。一方で、建築を弱くしすぎると自然に負けてしまい、人が安全に滞在できなくなってしまう。〈MOSS〉は、そのバランスを絶妙に保ちつつ、自然にお邪魔しているという感覚を持つことのできる建築にしたかった」。

「自然と共に生きる」未来を見据えて

SANU 2nd Homeを象徴するキャビンとして活躍している〈BEE〉、そして新しい顔となる〈MOSS〉。この、まったく異なるふたつの建築物を生み出した安齋さん自身にも、小さくない変化があったという。〈BEE〉に滞在するなかでの変化、ユーザーからの声を受けての変化に加え、子どもを授かったことも変化の一因だったと振り返る。


「子どもが生まれると、こんなに違うんだって。まだ10ヶ月くらいなんだけど、この子の未来は我々が何か考えないといけないなと、より強く思うようになった。自分は、何を残すのか。できれば、解決する術のないどうしようもない課題ではなく、素敵な未来の方がいいなとは思う」。

それが、木造建築を生業とするADXとして、何ができるかという問いをもたらせた。材料となる木を支える林業への思いもより一層、強くなっていった。

「日本の国土の7割は森林資源です。そして、その多くが活用されずに荒れているというネガティブな状況を知っている人は多いと思う。でも、きっとその木を植えた人たちは、いい未来を願っていたんだよね。戦前戦後に、焼け野原になった山に1本ずつ木を植えていった。彼らは、30年後、50年後の次の世代の人たちに、豊かな森を届けたいと願っていたはずなんです。

でも受け止められなかった。それは僕ら自身の弱さであり、勉強不足でもある、実力不足でもある。だからこそ、ADXとして、使命感を持って日本の森と向き合っていきたい。〈MOSS〉は、微力ながらいまの日本の林業に対する、ADXからの答えです」。

SANU 2nd Homeにとって、〈MOSS〉はこれまでにはない自然体験を提供する滞在のためのツールであると同時に、ブランドのビジョンである『Live with nature. /自然と共に生きる。』を、さまざまな角度から体現するプロジェクトでもあるのだ。

Text & Photo : kosuke kobayashi

 
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