SANUをつくる人 vol.3 |SANU STUDIO RAY 自然の光を受け止める連棟建築|芦沢啓治建築設計事務所・芦沢啓治

⼈と⾃然が共⽣する社会の実現を目指し、リジェネラティブなビジネスに取り組むSANU。その活動は、ブランドコンセプト『Live with nature. /自然と共に生きる。』に共感し、力を貸してくれるパートナーたちの存在に支えられています。『SANUをつくる人』は、SANUの大切な仲間である彼らにスポットライトを当てる特集。SANU 2nd Homeがいかにしてつくられているか、その一端をご紹介します。

第3回は、2024年夏に千葉・館山で開業した〈SANU STUDIO RAY〉を手がけた〈芦沢啓治建築設計事務所〉代表・芦沢啓治さん。連棟タイプの建築、ミニマルなインテリアを特徴とする、新しいSANU 2nd Homeがいかにして誕生したのか、その裏側に迫ります。

上質な滞在、自然との対峙を叶える連棟モデル

「〈SANU STUDIO RAY〉を設計する上で、私は、滞在する方がSANU 2nd Homeの取り組みをより理解できる、より納得できる施設にしたい、しなければならないと感じました。SANU 2nd Homeがどうあるべきかを考えたときに、訪れる方がもつ感覚の一歩上のサービスを提供するべきだと。想像の範囲を超えなければ感動していただけないでしょう。SANU 2nd Homeってすごいな、本当にこれは誰かに伝えなきゃっていうふうにしなければならない。そう思って設計しました」。

〈SANU STUDIO RAY〉は、SANU 2nd Homeのブランドにおけるひとつのターニングポイントとも言えるプロジェクトだ。キャビン型につづく、連棟型の施設で、いかにSANUのブランドコンセプトを表現するか。新たなフェーズへの第一歩という位置付けの建築でもある。

「私の事務所では、住宅から商業施設、ホテルまで設計していますが、一貫しているのは、良質な住環境を提供したいということです。良質というのは、建築家の思い込みだけで成立させるものではありません。どういう人がどういう滞在をするのかを考え、人と建築との良好な関係性を築いていくことに向き合っています」。

これまでのキャビン型と異なり、〈SANU STUDIO RAY〉は連棟タイプ。限られた土地の広さを最大限に生かす合理性のある建築と言える。そのなかで、芦沢さんは、居心地のよい空間づくり、自然と対峙できる関係性、そしてSANU 2nd Homeらしい建築とは何かに思考を巡らせ、設計に取り組んだという。

「〈SANU STUDIO RAY〉は、〈BEE〉や〈MOSS〉のようなキャビン型と比べると、空間構成のダイナミックさは控えめかもしれません。しかし、きちんと自然に根差したオーセンティシティを込めたかった。建築自体は非常に謙虚でありながらも、そのぶんインテリアのクオリティを上げたり、滞在時の視覚効果や体験の質を追求しました。設計はシンプルですが、長く使える建築であることが重要。建築家としての責任だと考えています」。

自然を存分に感じられるよう、屋外へと視線が流れる設計、バルコニー近くに配置されたバスタブ、プライベートサウナなど、ユニークなあしらいを施しているのが〈SANU STUDIO RAY〉の特徴だ。さらには、芦沢さんが得意とする木をふんだんに使用したインテリアも大きな魅力となっている。

日本の建築が培ってきた機能的な意匠

〈SANU STUDIO RAY〉のような連棟型の建築では、窓辺から光が入るように設計するのが一般的。館山の場合は海ですが、その見え方や光の入り方、つまりは自然との関係性は、日本の伝統的な建築の考え方が大いに参考になったと芦沢さんは振り返る。

「たとえば庇(ひさし)。雨や日差しを遮るものですが、建物を守るための機能性でいえば圧倒的に信頼できるものです。伝統的に見ても、物理的に考えても、庇しかないんです。

しかし、日本の現代的な建築は、この庇を排除してきました。ある種、家から家らしさを取り除いてしまったんですよね。空間の効率利用的な視点や、ある種のトレンドのようなものもあったでしょう。でも、これはハサミをハサミらしくなくすことと同じで、家としては正しくなくなってしまったように思います」。

海に面した館山の場合は、西側に窓が向いているので日差しがよく入る。しかし、庇があるおかげで適度に遮光され、さらにはテラス部分への雨の侵入を防ぐことができる。天気がよくない日でも、外とのつながりを保つことが可能になるのだ。

「庇は建築の老朽化を抑える効果もあります。建築に備わる機能としてとても理にかなっている意匠です。多雨な日本という環境では、やはり庇の役割はとても大きいんです。宿泊する方にとっては、そこまで気にするものではないかもしれませんが、安心感のようなものを感じとれるのではないでしょうか」。

くわえて、木造建築にこだわっているところもSANU 2nd Homeらしさと言える。これまでの木造建築が、建材を輸入材に頼ってしまった結果、日本の森が荒廃した歴史がある。国産材を使うことで、山の環境を取り戻す、そういう活動でもあるのだ。

「外とのつながり」を取り戻す

「仕事でインドネシアやシンガポールに行くことが多いのですが、季節的にはずっと夏。でも冷房をかけるということはあまりしないんですよね。ホテルでも、そもそもレセプションが外にあって、上でファンが回っているような環境です。

かつてアジアを旅していたときにも感じていましたが、素朴な国に行けば行くほど、建物と自然との関係性が近づいてくる。自然をコントロールするのではなく、いまある環境を大切にしながらいかに心地よく過ごすかを考えているように思います」。

外で過ごす風習は、日本にもあったはずだと芦沢さん。もともと日本の家屋は自然と一体となったつくりだった。しかし、とくに都市部では自然との関係性を断絶させてしまったのだという。室内の快適性を空調が担うようになり、外の気持ちよさを忘れてしまった。だからこそいま自然との関係を欲しているのかもしれない。そう芦沢さんは考えているのだ。

「日本の気候は、だんだん亜熱帯に移行しつつあると思います。真夏は暑すぎるかもしれませんが、窓を開けておいたり、外で快適に過ごすことのできる時期は長くなりました。そんな背景もあり、〈SANU STUDIO RAY〉でも、外とのつながりを感じられるようにしたかったんです。

いつか館山の人の話を聞いてみたいのですが、きっと窓を開けて過ごしたり、仕事をしているんじゃないかと。自然の美しさや気持ちよさを感じることは、生活の端々に必要になってくるはず。きっと泊まってもらえれば、この気持ちよさを感じてもらえるのではと思っています」。

芦沢スタイルで「整えられた」インテリア

〈SANU STUDIO RAY〉のインテリアを、芦沢さんは「整えられた」インテリアと表現する。

「基本的には、完璧に整理整頓された空間でありつつも、刺激を与えるような、ちょっとピリッとするインテリア設計を施しています。ドアを開けて、室内に入ったときの「整っている」感じは、癒しの効果があると思います。

そして、もちろんリラックスできる空間というのは大事なのですが、ちょっとだけ落ち着きすぎないというのも大事。インテリアにコンテンポラリーな雰囲気を取り入れることで、服装にも少し気をつかうような、気分が引き締まる感じにしています。だから、余計なものはほとんどないんです。

これまでのSANU 2nd Homeの建築、空間にも、そういう視点はあったと思います。普段から、あんなに洗練された空間に住んでいる人はいないはずです。スーツケースをきれいに置いておこうと思うような空間だからこそ、数日の滞在が豊かなものになると考えています」。

バスルームの設計も、〈SANU STUDIO RAY〉ならではの特徴だ。

「海に面しているのに、海を見ながらバスに入れないのは勿体ないね、ということを本間さんと話していたんです。でも、完全にバスルームのセットを窓側に配置すると、リビング空間が損なわれてしまう。結果、バスタブだけ出してみようということになりました。位置は屋外と室内の中間みたいな場所で、ぞんぶんに景色を楽しめます。

海外のホテルでは、バスタブだけ変なところにあるというのは珍しくありません。そういう意味でも、コンテンポラリーな意匠ですよね。となりにはデスクもあるし、そのせいで関係性がよくわからなくなっています。外と中の間、このグレーゾーンで遊んでる感じはありますね。窓が大きいですしユニークな建築になりました」。

SANUの新しいスタンダードとして

芦沢さんは、SANU 2nd Homeの魅力を、空間やインテリア、ランドスケープだけでなく、「自然と共に生きる」というコンセプトからくる文脈的な側面にもあると捉えている。だからこそ、これまでキャビン型の建築でSANUを認識し、滞在を楽しんでいた方たちに、新しいSANUらしさを提供したいと考えたのだ。

「いま、〈SANU STUDIO RAY〉はまだ「新しいSANU 2nd Home」ですが、室数でいえば早い段階でマジョリティになるでしょう。ひとつの拠点で14室できてしまうので、あっという間に100室、200室と増えていくからです。連棟型のモデルでSANU 2nd Homeの質のスタンダードを上げていくことも、私たちの仕事だと捉えています。館山からはじまり、那須、伊豆と続々開業します。新しいSANU 2nd Homeの滞在をぜひとも楽しんでいただければと思います」。

Text & Photo : kosuke kobayashi

 
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