SANUをつくる人 vol.4 |SANU LOFT SKY コミュニティの起点となる、共有する空間|Puddle代表・加藤匡毅
⼈と⾃然が共⽣する社会の実現を目指し、リジェネラティブなビジネスに取り組むSANU。その活動は、ブランドコンセプト「Live with nature. / 自然と共に生きる。」に共感し、力を貸してくれるパートナーたちの存在に支えられています。「SANUをつくる人」は、SANUの大切な仲間である彼らにスポットライトを当てる特集。SANU 2nd Homeがいかにしてつくられているか、その一端をご紹介します。
第4回は、SANUとしては初となるメゾネットタイプの〈SANU LOFT SKY〉を設計した建築事務所〈Puddle〉代表の加藤匡毅さん。これまで長野や山梨などの「山」をフィールドに展開してきたSANU にとって〈SANU LOFT SKY〉は、はじめての「海」をテーマにした建築であり、現在は千葉県の一宮に〈SANU 2nd Home 一宮1st・2nd〉を展開しています。
一宮は九十九里浜の自然と文化を存分に楽しめるロケーションでありながら、都心から1時間半程度でアクセスできる手軽さも大きな魅力。また、屈指のサーフスポットでもあり、家族だけでなく仲間とも滞在しやすい広々とした空間も〈SANU LOFT SKY〉ならではの特徴となっています。
〈SANU LOFT SKY〉がどのようにつくられていったのか、設計を手がけた加藤さんの思いをお届けします。
SANUのライフスタイルを体現するメンバーとして
「SANU 2nd Homeとの関係のはじまりは、タカヒロくん(本間貴裕 SANU Founder / Brand Director)に誘ってもらって、SANUがプロジェクトを進める上でのアイデア出しや壁打ちを行う『クリエイティブボード』のメンバーとしてでした。建築家として声がかかったわけではなかったんです。
僕自身、ずっと東京で建築事務所を構えて活動していたのですが、子どもが小学校に上がるタイミングでもっと自然のある場所で暮らしたいと考えるようになって、軽井沢に拠点を移しました。タカヒロくんにとって、僕は東京での仕事もしつつ、自然のある土地で生活を営む、まさにSANU 2nd Homeが目指すライフスタイルのモデルケースのような人だったのかな」。
「クリエイティブボードの会話のなかで、『SANUは新しいモデルを作っていきたいから、いろんな建築家やデザイナーと組んでいくべき』だという話が出て。僕に『どういう建築がいいと思う?』という質問を投げかけられることもありました。
自分なりに、こういう人もいいんじゃないかと、何人か名前を挙げた気がします。つまり、当時は僕自身がSANUを設計する当事者だという思いは全然なかったんだよね。ある意味、少し俯瞰した客観的な立場で、SANUとの関係性が育まれていったのかな」。
Photo: Tatsuya Kondo
ラフスケッチで描いた「海のSANU」
SANU 2nd Homeのブランドコンセプト「Live with nature. / 自然と共に生きる。」を体現するひとりの人間として関係がつづくなか、海をロケーションとする拠点の構想が立ち上がった。
「タカヒロくんとは定期的に話はしていたんだけど、あるとき『加藤さんなら、どんなSANUやるの?』って言われて。
当時は、SANUのイメージといえば山。八ヶ岳とか白樺湖とか、軽井沢とかね。山の別荘という印象だったと思う。でも、タカヒロくんとしては、やっぱりサーフィンがしたかったんだろうね(笑)。海でSANUをやりたいという思いをずっともっていて、ついに海の近くにSANUをつくることになった。
ありがたいね、嬉しいなって思ったけど、いきなりプレッシャーも出てきちゃった。でも、半年以上そのボードメンバーやらせてもらったおかげでSANUが何をしたいか、会員さんにどういう体験をしてもらいたいかは、すごく自分のなかに出来上がっていた」。
加藤さんは、本間との会話のなかからうまれたアイデアを見つめ直し、ラフスケッチに取り掛かった。当時のスケッチでは、〈SANU LOFT SKY〉で採用されている「雁行型」がすでに考えられていたという。
最初のロケーションは、千葉・一宮。サーフィンカルチャーの中心地のひとつで、サーファーなら馴染みのある場所だ。東に向いたビーチがつづき、太陽の光が降り注ぎ、海からの風が吹く、「海のSANU」のデビューにはこれ以上ない適地だった。
「構想段階では、まだ具体的な土地は決まっていませんでした。でも、『海側は山と違って、1棟ずつ建てられる土地を探すことがかなり難しい』ということは聞いていた。ずっとSANUは1棟型のキャビン〈BEE〉でやってきていたから、新しい挑戦になると。
〈SANU LOFT SKY〉の形状を、加藤さんは『雁行型(がんこうがた)』と呼ぶ。それぞれの部屋が45度の角度で組み合わさりながら連なる〈SANU LOFT SKY〉を、雁(かり)という、渡り鳥が連なって飛んでいく様子に重ねたのだ。
「そんな話をもとに描いたスケッチをタカヒロくんに説明したら『いいじゃん、これやろう!』って。そうして、ようやくSANUの設計者にアサインされたというわけなんです」。
プライベート空間とシェアする場所を提供する雁行型建築
ユニークな雁行型の〈SANU LOFT SKY〉だが、加藤さんは「経済的ではない」と話す。
「土地の効率的な利用や、居住面積を大きくとるためには整然とした構成にメリットがありますが、〈SANU LOFT SKY〉は『みんなとシェアする』場所にしたかった。そのための手段が、この雁行型だったんです」。
設計図を真上から見るとわかりやすいが、雁行型にすることで、各部屋の半分が独立した場所となり、もう半分がシェアする場所になる。それぞれの部屋は、正方形が2つ並んだ1対2の長方形で構成されている。そのため、半分の正方形部分が吹き抜け、そのとなりがテラスという構成が可能になった。
Photo: Tatsuya Kondo
「独立した部屋でありながらも、2分の1だけお隣さんと共有するイメージですね」。
さらに、〈SANU LOFT SKY〉の名前にあるとおり、窓から望むことのできる大きな「空」も建築のコンセプトのひとつ。
「候補地になった一宮に来てみて感じたのは、空がとても広いこと。海の澄み切った空を見上げて、光を感じる。これまでのSANUは、森に籠るような静かな建築だった。海のオープンさ、ふところの広さみたいなものを感じさせる建物もいいのかなって。すごくいい光が入るんです」。
建築全体にも、加藤さんの思考が巡らされている。角度をつけることで、海から流れてくる光や潮風をダイレクトに感じられるようになったという。
平面的な壁ではなく、ブロックが組み合わさるような形状になることで、光と影をつくることができる。時間の経過とともに建築がさまざまな表情を見せてくれるのだ。さらには、室内でも太陽の動きを存分に捉えることのできる設計であるとも言える。大きな窓からは、太陽光が降り注ぎ、海沿いらしい大きな空をより身近に感じることができる。
さらに、〈SANU LOFT SKY〉には知る人ぞ知る特徴がある。
「建築と、この土地のすごい完璧な接点がひとつあります。一宮の海沿いには、県道30号線がほぼ南北に走っている。〈SANU LOFT SKY〉は、その県道に対して直角、つまり東を向いて建っていて、春分と秋分の日には建物のちょうど中央に太陽があがるんです。
結構声を大にして言いたいことなんですよね。狙ってきてもいいし、偶然でも、その日に来てくれた人はぜひ太陽を存分に感じていただきたい。僕らの地球にとって、やはり太陽は全てのエネルギー生命の源。そこに向かって建物が雁行できたっていうことはすごい奇跡だなと」。
SANUをゆるやかなコミュニティの起点にしたい
先ほど加藤さんが言っていた「みんなとシェアする」建築。この言葉についても少し掘り下げてみたいと思う。
「〈SANU LOFT SKY〉は海のSANU。一棟型の〈BEE〉とは違って、隣の部屋と壁で接しています。さらには、コーヒースタンド〈OVERVIEW COFFEE〉、会員制コワーキングスペース〈Soil work Ichinomiya〉が併設されるなど、滞在者が集える場所が設けられています。
これが何を意味するのかというと、〈SANU LOFT SKY〉では訪れた人たちが会話をしたり、さらにはコミュニティが生まれる場所になる可能性を秘めているということなんです。
きっとサーフィンが好きとか、趣味嗜好や仕事などに共通項がある人が、ここには集まると思うんです。ひょっとしたらここから新しいつながり、輪がうまれていくかもしれない。でも、これはアパートメント型ならではの特徴だし、〈SANU LOFT SKY〉が「みんなとシェアする」建築と表現する理由でもあるんです。
これまでは部屋の中でそれぞれの時間を楽しんでいたSANUのメンバーどうしが、〈SANU LOFT SKY〉に集い出会うことで、同じ場所でコミュニケーションを楽しむことができる。
タカヒロくんが言ってたんです。サーフィンが終わったあとに、『おいしいコーヒーが飲めて、夜はナチュールワインを楽しめるような場所があったらいいよね。そういうのを作るの、加藤さんは得意じゃん』って」。
海のSANU 2nd Homeのキーワードはシェア。海岸沿いだからこその広い空、歩いて5分で辿り着けるビーチ。波の音が響き、潮風が吹く一宮だからこそ、誕生したSANU 2nd Homeなのだ。
森はつくれるか? 何十年も先の未来を見つめる
「〈SANU LOFT SKY〉の中庭は、いつか神社の境内みたいになったらいいなと思ってデザインしたんです。10年20年、30年経って、真んなかの木が本当に大きくなっていって、建築の高さを超えて、中庭が大きな森みたいになってほしい。
地方を車で走ってると大きな森がぽつんとあって、きっとあそこは神社だなって場所があるじゃないですか。一宮の〈SANU LOFT SKY〉も、長い時間をかけて、森があって、季節があって、風が吹くような、地域の神社的存在になれないかなって。これも〈SANU LOFT SKY〉の建築のコンセプトでもありました」。
もうひとつ、建築材に山武杉(さんぶすぎ)と呼ばれる地元の木材を使用している点も見逃せない。山武杉は一宮の北に位置する山武地域の計画森林で育てられている材のこと。
これまでも、SANU 2nd Homeは、地域の木材、環境に配慮した森林資源の利用に取り組んできた。一宮に誕生した〈SANU LOFT SKY〉では、山武杉の間伐材を建築に使用することで、林業の活性化、さらには森林環境の改善に少しでも寄与できればと考えた。
都心から1時間半、ライフスタイルに寄り添うSANU
取材を行ったのは、千葉・一宮にある〈SANU 2nd Home 一宮1st〉。九十九里浜までわずか200mほどと、まさに「海のSANU」を体現する拠点だった。
「サーフィンを楽しむ方が使いやすいように、大きなお風呂場だったり、砂を気にしなくてもいいようなつくりにしています。あとは、やはり大人数で滞在できることも、〈SANU LOFT SKY〉の特徴。メゾネットタイプになっているのは、家族はもちろん、仲間と遊びに来ることを想定しているから。
僕としては、キッチンが家のなかでのクリエイティブの中心にあると思っていて、料理をしたり、食卓を囲みながらコミュニケーションを楽しんでほしい。空間をシェアして語り合う、チームで仕事をするとか、そういうSANUの使い方があってもいいんじゃないかと思ったんだよね」。
SANU 2nd Homeの拠点のなかでも、都心からアクセスがよく、1時間半程度のドライブで訪れることができる。気兼ねなく自然を体感し、滞在を楽しむ。シェアすることの豊かさが〈SANU LOFT SKY〉には詰まっているのだ。
Text & Photo : kosuke kobayashi