Hello, we are "NOWHERE”. vol.1

全3回にわたって、ブランド、建築、食、コーヒーなどさまざまな領域からプロジェクトに関わるプロフェッショナルたちが「これから、ここで何が始まるのか?」についての構想や妄想を語らう本企画。

今回は、NOWHERE設計担当の武田清明さん、ランドスケープデザイン担当の上田亮さんにお話をお聞きします。


vol.1 ここは、変化し続ける「自然」と「ヒト」の営みが交差する場所

「地球の質量を感じる」場所というテーマを持つ、”SANU NOWHERE”。ここは「不動」の巨石を中心に据える空間ですが、「固定することなく、自由に育つ場所」でもあって欲しい、とふたりは未来の“NOWHERE”へ思いを馳せます。その心を知るには、人間同士の関わりや、ヒトと自然の関わり方を考える建築家とランドスケープデザイナーの視点と、“NOWHERE”の空間づくりのプロセスを紐解く必要がありそうです。


Speaker (Left side) : 武田清明
武田清明建築設計事務所代表。SANU Founder / Brand Directorの本間とは、自然をキーワードに、建築への思想を共有することから“NOWHERE”プロジェクトに参画。

Speaker (Right side) : 上田亮
ランドスケープデザイナー。「鶴岡邸(武田清明建築設計事務所)」のランドスケープデザインを担当して以来、武田さんから「石と言えば上田さん」と信頼を置かれる関係。


———— 巨石を空間に設える、
ただそれだけで居場所が生まれるのです。
(武田)

武田

正直に言いますと、“NOWHERE”の屋号や「地球の質量を感じる」というコンセプトはプロジェクトがだいぶ進行してから聞いたんですよ。

上田

そう考えると、今回は「ほぼ設計しない設計」だったかもしれませんね。みんなの自然なムーブメントで作り上げる。そういう感覚に近かったかもしれません。

言ってみれば本間さんが武田さんをチョイスした時点で「点と点で結んで線になっている」。あとはその「線」をブレさせないようにするだけだったと思います。

武田

確かにそうかもしれません。“NOWHERE”のキーマテリアルとなる石も、本間さんの描くストーリーを聞いて閃きました。山登りをする時、ふと石に腰掛ければ、「地球の質量に身を委ねる安心感がある」というお話があって。そこに「質量」のキーワードも登場したところで、今回は石を用いるよりほかないと思ったんです。

石と言えば、上田さん以外に適役はいません。地域によって異なる石の種類ですとか、原産地の風景を教えてくださって、僕が石に取り憑かれるきっかけを作ったのは他ならぬ上田さんですから。

おふたりが出会うきっかけとなった「鶴岡邸」。上田さんはランドスケープデザインを担当。現在は、武田さんが代表を務める建築事務所が1階に入居している。

武田

さて話は少し遡りますが、先ほど上田さんが「ほぼ設計しない設計」と言及されたのは結構面白い話です。巨石を持ってくること、巨石を置くこと自体が、“NOWHERE”における僕たちの「仕事」のような感覚があると言いますか。巨石を空間に設える、ただそれだけで居場所が生まれるんですから。

通常、設計という仕事は寸法であったり具体的な配置計画があったりと厳密な作業が求められます。ですが今回は日本のあちこちから東京の真ん中へ、とてつもなく重たい唯一無二の「そこにしかない」大地の物質を集めるだけで場を作ろうとする、前代未聞のチャレンジです。

上田

まさに。「これは設計なのか?」と疑問が浮かぶ方がいるかもしれません。ただ、それこそが“NOWHERE”の醍醐味です。まさしく設計の本質とさえ思います。

設計やデザインにおける出発点は、お金や数字ではありません。それらは機械やプロダクトをエンジニアリングする振る舞いであり、エンジニアの仕事です。もちろん今回僕たちも最終的には緻密な計算を求められます。けれどもそれだけが本来の「設計」なのか? と。翻って今回のプロジェクトは設計の原点、すなわち本質を求められている気がします。

武田

本質的と言えば、今回のプロジェクトでは「経済的に合理化されたモノ」の受け渡しではない点もそうですね。普段の設計では、プロダクト化された建材を使うことが一般的です。フローリングでも平板でも、材木に限らず鉄でもコンクリートでも石でもそうです。全て加工されていて、均質化された「モノ」を扱います。一方、“NOWHERE”では、ちゃんと産地に足を運び、産地の方と対話し、厳密に唯一無二の物質の中からひとつをみんなで選ぶというのが……。

上田

どの「大地の欠片」が本当にいいのか、みんなで本気で悩みましたね。真鶴(神奈川)でも、蛭川(岐阜)でも。

武田

みんなのエネルギーがちゃんと選ぶことに向かっていました。だからこそ石さえ持ってこられれば、然るべき空間が自ずと「完成してしまう」。場を作る人間がしっかりとエネルギーを注いで選んだ自然物があれば、場所は自然に形成されるとも言いますか。

「ちゃんと物を選んで、運ぶ」という僕たちヒトにとって自然と向き合う根源的な行為が発生していて……。

上田

いわゆる「商品」の受け渡しではないですよね。人工的に加工されたプロダクトを右から左へとただ移動させるのではなく、ヒトとヒト、さらには自然物とのコミュニケーションの中で、空間を有機的に生み出すプロセスが成立しているように思いました。

このプロジェクトにいつもわくわくさせられるのは、やっぱりそこに要因があると思います。これまでにはあまり通ってこない進め方ですから(笑)。

武田

確かに。原産地と、そこで関わる方々の顔がちゃんと見えるオープンなプロセスで進めていくのは本当に有り難く、楽しかったです。

———— “NOWHERE”は、石や空間を存分
に遊んで楽しんでいただくうちに、空間に
必要な変化が自然と生まれる——育ってい
く場所(上田)

上田

ヒトが直接的に介入しない山を登ることは心を健康にする大事な行動ではありますが、今回は、チームメンバーとともに「ヒトの営みがある山」に入ることを強く意識しました。それは都市であろうが山であろうが、「ヒトの営みはどのように自然と付き合っているのか?」という視点を通じて、大地とヒトとの繋がり、関係をリアルに体験してもらいたかったからです。その上で、ランドスケープデザインに携わる人間としては、「僕らは大地の恩恵をいただきながらしか仕事ができない」ことを共有したいと考えていました。

武田

そうして探し出した巨石を、屋外と室内に分けて横断的に配置するのもまたいいですよね。石が、遮蔽物となるガラス(人工物)を跨ぐことで、外側と内側の世界に繋がりが生まれるような。内側(ヒトの営み)にいても外側(自然界)に思いを馳せられるようです。

上田

さらに言えば、ヒトの手ではびくともしない巨大な自然物が空間に存在することで、「なぜここに?どうして?」という一種のバグが生まれると思います。そこには自然の崇高さと言うか、畏怖のようなものがある。どうしてもヒトの力が及ばない事象が自然界にはあることを今一度思い起こさせる舞台装置になるんじゃないかなと。

上田

これらの仕掛けは、神社仏閣や遺跡を築いてきた、現代以前のヒトの営みに続く行為だと言い換えることもできます。あるいは、テクノロジーの発達以前の時代、人々が平然とやってのけた営みを、“NOWHERE”の現場で現代に甦らせるとも言えます。ちょっと大袈裟かもしれませんが。

武田

事件性の高い工事現場の風景になるかもしれませんね。中目黒という東京の真ん中に、見たことないほど巨大な岩がクレーンに吊り下げられて登場するなんて。事情を知らない道ゆく方々にとってはさぞ不思議に思われるでしょうし、言ってしまえば「石ころ一個」ですが、それが目標地点に設置するだけで一同から歓声が沸くだろうと思いますよ。

上田

本当ですね。運んでくる石は、少なく見積もっても皇居の城垣を形成する岩とほぼ同じ、5〜10トンほど巨大なもの。なかなか面白い光景になるはずです。

武田

それが高速道路を走ってくるなんてまさに不思議そのものです。

上田

もしかすると重量オーバーになるかもしれません。

武田

乗ったとしても、法令ギリギリの風景かもしれない。それもまた、ある意味ではチャレンジですね(笑)

上田

話していると、あらためて巨石を選んだ時の風景までもが眼前に立ち上ります。

真鶴で小松石を探していた時でしょうか……。石を選ぶ大の大人たちが、まるで子どものように石に寝そべったり座ったり撫でたり、上に立ってみたりしているのを見て、「ああ、この美しい風景は、“NOWHERE”の風景かもしれない」と確信したんです。石を起点として、都市だろうが岩場であろうが関係なく、その場に豊かな風景が生まれるような……。

武田

ああ。そうやって、まるで石が語りかけたり、働きかけたりするような空間が“NOWHERE”かもしれません。自然がつくった形なのに驚くほどフラットで驚いたり、石そのもののテクスチャーを指でなぞったり。自然による構成物そのままの寸法を自分なりに解釈して、「山登りで休憩する石」のように自分なりの工夫と見立てで付き合ってもらえたらいいなと。

上田

ランドスケープデザインをする人間にとって、作品は施主さんに引き渡してから始まる……「育つ」感覚があります。“NOWHERE”でも、SANBARCOさんや ONIBUSCOFFEEさんが営業を始めて、近隣や遠方の方々がたくさん出入りして、石や空間を存分に遊んで楽しんでいただくうちに、空間に必要な変化が自然と生まれる——育っていくんじゃないかなと実は期待があります。

武田

僕にも同じ思いがあります。だからこそ、巨石は固定したくない。自然から一時的にお借りしているだけだと考えています。もともと山奥の、誰の手にも触れられないところにあったものが都市のど真ん中に来て、人々に自然を思い出させる役目を担ったけれども、でも、それはたまたまのこと。あくまでも都市における仮初めの役割でしかない。いつかまた違う場所に移ってもいいし、ふるさとに戻ってもいい。動かす大変さは十分に分かっていますし、空間面における安全性も担保しますが……。やっぱり「お借りしている」という気持ちでいたい。その願いは個人的にありますね。

上田

その意味でも、「竣工したから完成」ではなく、ずっと誰かが空間を愛でながら成長させていきたいですね。時代が変われば空間も変わっていきますから。“NOWHERE”の場所を、BLUE BOTTLE COFFEEの伊藤さんから引き継いだように。

Text: Yuria Koizumi , Photo: Yikin Hyo


SANU NOWHERE

都市の真ん中、ここは地球を愛する人々が集う場所
This is a place where those who love the earth gather.

2024年夏、東京・中目黒にオープン.

Instagram @sanu_nowhere

 
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