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Hello, we are "NOWHERE”. vol.3

全3回にわたって、ブランド、建築、食、コーヒーなどさまざまな領域からプロジェクトに関わるプロフェッショナルたちが「これから、ここで何が始まるのか?」についての構想や妄想を語らう本企画。

今回は、現場の工事や内装管理担当の樫英二郎さん、植栽担当の天野慶さんにお話をお聞きします。


vol.3 人と都市と自然で、手を繋ごう。“NOWHERE”、ここは地球を感じる場所。

都市の中にありながら自然の息吹を感じる場所、“NOWHERE”。アプローチから足を進めると、北半球の大木、乾燥帯の面影、湿潤な里山など、大きな地球の、ローカルな風景が次々に現れます。遠く離れたどこかに流れる時間を緑の隣人たちに気づかされる、ここは「地球を感じる場所」。人と都市、自然の新たな生態系とも言えるこの場所のために、チームはどのように相互作用したのか。オープンを目前に控えた今、象徴的なエピソードを交え振り返ります。


Speaker (Right side) : 樫英二郎
LIFEONE株式会社代表取締役。SANU創業時より、開発〜建設にまつわる領域で多面的に関わる縁の下の力持ち的存在。NOWHEREでは建築、内装管理を担当。

Speaker (Left side): 天野慶
造園家、株式会社Yard Works代表取締役。植物のある風景を愛し、緑のある生活の魅力を提案し続ける。SANU 2nd Home一宮1st、2ndのランドスケープデザインも手掛ける。


———— 「どこ」と特定できない
唯一無二の生態系、NOWHERE(天野)

天野

「“NOWHERE”というプロジェクトがあるから、慶さんジョインできない?」という本間君(SANU Founder / Brand Director本間貴裕)からの突然の電話で、僕の“NOWHERE”は始まりました(笑)

ああ、いつも通りの展開ですね(笑)

天野

そこで早速ドアノブや装飾で使う玉石探しに同行したところ、大人たちが全身全霊で自然を味わう様子を目の当たりにしたんです。その楽しそうな姿はまるで完成後の“NOWHERE”を彷彿させる光景で……。その熱を受けて、僕たちYard Worksも植物選びツアーを実施しようと思い至ったんです。

これまでにそんな動き方は無かったんじゃないですか?

天野

そう、初めての試みです。

天野

ツアーを実施する以前に、“NOWHERE”というキーワードから連想した植栽のイメージはぼんやりとですが描いていました。けれども植物は自然物ですので、「どこに植物を見に行くか?いつ出会うか?」によって最終的にセレクトする品種は大きく変わります。当然ですが、人間が完全にコントロールできる世界ではないんですね。

選択の余地を残していた部分に、 “NOWHERE”についてコンセプトや建築、空間設計などそれぞれの立場から思考するメンバーの意見が組み込まれて、 まさに“NOWHERE(≒どこでもない空間)”を思わせる植物が集まったのは面白かったですね。

日本の原風景を思わせるシダもあれば、砂漠や乾燥地帯を代表するサボテン、南国情緒が漂うヤシがあり、その一方で北米地方の針葉樹もあります。

僕は全く植物に詳しくないですが、植栽の施工を終えた後に広がった“NOWHERE”の風景は「どこ」と特定できない唯一無二の生態系だなあ、と感慨深かったです。

天野

たとえば室内の巨石横にある「アレカヤシ」は、マダガスカルやアフリカなどの熱帯雨林気候が原産地の植物です。それと対になるように植えた屋外アプローチスペースにある巨石横の「センペルセコイヤ」は北半球が故郷です。

樫さんの見立ての通り、“NOWHERE”に広がる景色は地球上のどこにも見つけることができない風景です。北も南も、日本国内も、国外の植物も混ざっていますから。ぐちゃぐちゃだと言えばそうですが、それだけではなく実はいろんな緻密な計算の上に成立しているんです。

前回ご一緒したK5のプロジェクト(*両名は以前、兜町のマイクロ・コンプレックスK5でプロジェクトを共にしている)では、四季のサイクルや経年変化、導線によって異なる見え方など細部へのこだわりが随所に隠されていましたよね。きっと今回もいろいろな仕掛けがあるだろうと思っていました(笑)

天野

仕掛けていますよ(笑)。ただ基本的には、あまり説明しないようにしているんです。僕自身あんまり「答え合わせ」をしたくないタイプですし、僕が何かを語らなくても、物言わぬ植物がいろんな形で教えてくれることがありますから……。

山や海に行っても、誰かが逐一全てを教えてくれるわけじゃないですもんね。

天野

そうなんです。そもそも僕は「木を見ずに森を見て」と主張する人です。細部ではなく全体を見て欲しいから。と言うのもこの世の中には、通りかかった人の足が自然と止まる「植物のある風景」が存在するんですよ。「なぜ足を止めるか?」を探ると、そこには、たとえば雨上がりの花が放つ甘い香りや、季節の移ろいによって変化した葉の形や色などの「なにかの気配」が漂っているんです。視覚的に気づくものだけではなく、「なにかいつもと違うぞ」と僕たちの無意識のアンテナがキャッチする類の、植物の表情やアクションがあるんですよね。

まさにそうした植物の息づかいこそが、慶さん率いるYard Worksの妙だなとつくづく思います。

天野

今回は特別にちょっとだけ種明かしをしますけれども(笑)、巨石とのバランスや室内外からの見え方、時間の経過とともに成長し、樹形が変化していく植物の姿や状態などに注目していただけたらと思います。秋から冬、冬から春、夏と、季節が変わると気づくものがたくさんあるので、何度も足を運んでいただければと。

さらに細かいところで言うと、最も“NOWHERE”の風景を見るのは、建物のすぐ前にある駒沢通りを車で通り過ぎる運転手たちだと予想して、何度も建物の前をドライブして見え方のイメージを膨らませました。車で通りかかる方にもぜひ楽しんでほしいですね。

プロですねえ!

実は、巨石の色みと形から日本的なテイストの仕上がりを予想していたんです。けれども実際には、全然そんなことなかったですね。

天野

もしかすると、床材を剥がして露呈させた土と、あたかも岩の隙間からシダが自然に芽吹いてしまったかのように配置したことが功を奏したのかもしれません。

街中でときどき樹木を邪魔しないように設計された建造物を見かけますけれども、それと同じように、巨石が先にあり、後進である建造物が巨石と共存するために作られた空間のようにも見えますよね。

天野

もし、この巨石が普通の床に置かれただけなら、いわゆる「アート」になっていたかもしれません。

けれども、岩周辺の「自然のある風景」と、武田さん(NOWHERE設計担当。本企画vol.01に登場)のこだわりが詰まった、巨石の重さを感じさせるためのロープと天秤状の仕掛けが相互作用することで、「地球の質量」を感じさせることを実現したように思います。

———— まるでジャズセッションのような、
メンバーの自律分散性と現場のライブ感で生まれた場所 (樫)

天野

僕が言うことでもないかもしれませんが(笑)、今回はいつにも増して個性的な面々が集まった現場だったと思います。それを現場の総指揮官として束ねあげ、「地球の質量を感じる」というコンセプチュアルな空間思想を現実に落とし込んだのはまさに樫さんの手腕だなとつくづく思うのですが、振り返ってみてどうでしたか?

個性豊かな方々ではありましたが、みんなプロフェッショナルたちなので心強かったですね。

たとえば初日早々、石を吊ったワイヤーが切れて、キャタピラ(ブルドーザーなどの大型装甲車の駆動輪に巻かれるベルト)が動かなくなってしまったときはさすがに一時騒然としました。けれどもその時、上田さん(ランドスケープデザイン担当。本企画vol.1に登場)は笑っていたんですよねえ。楽しげに……。

天野

朝5時から稼働する最中でのトラブルにも関わらず、上田さんはじめ施工チーム全員が「どうにかなる!」「もっと来い!」という様子で(笑)。彼らがこれまでに踏んできた場数の違いを感じましたよ。

すごいと言えば、武田さんもです。巨石に当てるための照明位置と角度を調整するために、「あとちょっと、あとちょっと」と数時間続けて微調整されていました。上田さんたち同様、武田さんたちもずっとニコニコと作業されていたのが印象的です。

天野

ニコニコと言うか、ニヤニヤと言うか(笑)。見ているこちらまでも楽しい気持ちにさせる笑顔でした。

冒頭に触れた玉石拾いや植物選びもそうですが、今回はとにかくみんなが実際に集まって自然を体感しながらプロジェクトを練り上げていく機会が多かったです。

飲食パートで入ってくれる宮崎の<SANBARCO>にも、みんなで行きましたね。

天野

いい夜でした。同じ案件だったとしても、なかなか会えない人がいる中で、全員が集合して会話できる機会はとても貴重だったように思います。

ちなみに<SANBARCO>が入ると聞いた時、「最高!」と嬉しくなりました。青島に仕事があるたびにお邪魔していた大好きなお店でしたから。タコスはもちろんですが、良輔さんの作るパスタが僕は人生で一番好きなんです。それにキーライムソーダを合わせたら、もう言うことはありませんよ。

実は僕、<SANBARCO>でご飯をするために前乗りしたんです。実際に伺ったら、あまりの美味しさにメニューを全制覇してしまって(笑)

天野

わかります。次は、Yard Worksのある山梨にも出店してほしいです(笑)

<ONIBUS COFFEE>はもう言わずと知れたコーヒーの名店です。中目黒に来るたびにオーダーしていたり、我が家のデイリーコーヒーとしてお豆を使っていたりと、いろいろとお世話になっています。

サードウェーブの騎手としての凄みがありますよね。“NOWHERE”の屋台骨のひとつとして、安定感があります。

施工に関していえば、<ONIBUS COFFEE>中目黒店でかつて設えられていたハング窓(上下にスライドして開閉する窓)が個人的にとても印象深いです。

「中目黒店の思い出として、ハング窓を引き継がない?」という話が急遽もち上がり、急いで実物のピックアップに向かいました。

お世話になっている工場に検分してもらうと、この窓は既製品ではないこと、堅牢で重量がある分、上げ下げするための建具の調整が難儀なことが判明。誰にとっても負担が小さく、かつ指を挟みにくくするために新たなパーツを作ることになりました。これは現場の最適化を図って、僕が判断して進めた部分でもあります。

設計にはなかなか骨が折れましたが、採用できて良かったと思える部分ですね。

天野

一般的に施工屋は、クリエイターの頭の中を余すことなく実現させる仕事を求められますが、樫さんはそのボーダーを越えて、逆にクリエイターに働きかけますよね。しかもそれがノイズにならず、機能しています。

“NOWHERE”というプロジェクトは、僕が思うに、まるでジャズセッションのように大枠は決まっているけれども、あとはプレイヤーが自立分散型で動いている分、「現場」でいろいろな帳尻合わせをしなくてはいけないライブ感があります。完成形がガッチリ決まって動くタイプの案件進行とはまた違う。

だからこそ誰の担当とも言いきれないエアスポットも自然と出てきます。壁塗装の有無やオフィスエリアの換気扇などがその一例で、看過されやすい要素でもあります。それを取りこぼさず、樫さんは実際にその空間を使う人の快適性をしっかり考え、提案してくださる。

施工コストや手間を考えると、施工側の仕事が増えるにも関わらず、全体を俯瞰する立場から「最適解」と思われる方向へと流れる呼び水を作るんです。それを思うと、樫さんもまた“NOWHERE”を作るクリエイターのひとりだとつくづく思います。

そう言っていただけて、ありがたい限りです。今回の現場を通じて、「どこでもない場所(≒NOWHERE)」を作るというのは、こういうことなのかと思いました。自分の持ち場を超えた声かけから大きく動きだすものがある。メンバー間の信頼をもとに、互いにリスペクトをもって関わり合って、 “NOWHERE”という場所を作り上げたんだな、とつくづく実感します。

天野

都市の中にありながら、自然を愛する人たちが集う“NOWHERE”。これからどうなるのか楽しみです。

本当ですね。早くいろんな方に来ていただいて、みんなに愛される空間になるといいですね。

Text: Yuria Koizumi , Photo: Yikin Hyo


SANU NOWHERE

都市の真ん中、ここは地球を愛する人々が集う場所
This is a place where those who love the earth gather.

2024年9月7日(土)、東京・中目黒にオープン.

Instagram @sanu_nowhere