山の幸、山菜の楽しみ方
滋味深く野趣あふれる山の幸・山菜。SANUの拠点周辺にも、春になると山菜が芽吹くエリアがいくつかあります。
せっかく自然のそばで過ごすなら、山菜を味わうことで、旬のより豊かな食事を楽しみたい。そこで、山菜料理発祥の地と言われる旅館・出羽屋の四代目店主 佐藤治樹さんに山菜の魅力や見分け方、味わい方を聞きました。
―― まず、山菜の定義や特徴を教えていただけますか?
山菜はもともと「山のおかず」という意味。春は葉物、夏は川魚に秋はキノコと、山で採れる全ての食材をいいます。
葉物の山菜を山菜と言うようになったのは、巷のマーケティング的な要素が大きいですね。出羽屋で出す山菜は、山の食材全て。山は日本一四季の変化が鮮やかで、一年を通してさまざまな味を楽しむことができます。
山菜は、高湿地じゃないときれいに育ちません。そして、腐葉土の役割がとても重要です。ブナの落ち葉が蓄積した腐葉土で雨水が濾過され、きれいで美味しい軟水ができる。その水で山菜が育ち、料理をすると、食材の味や香りが立つとてもクリアな山菜料理になります。
逆に硬水で出汁を取ると濁りが出て、食材の味を引き出せない。つまり、この山で作られた軟水が全ての山菜や料理の根源です。
―― どのようにして山菜料理は誕生したのでしょうか?
「西の伊勢神宮、東の奥参り」という言葉があります。
江戸時代、西か東に行くのが日本の一大観光でした。西の伊勢神宮へお化粧して向かうお参りの旅か。あるいは、東の出羽三山へすっぴんに白装束を着て向かう、蘇りの旅か。山菜料理は、そんな月山へ修行に向かう人々をもてなす文化から生まれました。
出羽屋のある月山の麓は、日本一積雪の多い地域で米ができにくく、冬は山菜の乾物や塩蔵品を食べるしかなかった。昔の山菜料理はただの田舎料理だったんです。それを、おもてなしの料理へ昇華させた祖父は、全国を食べ歩き、食の研究を重ねたといいます。
そうして見出したのが、風土を追求した山菜料理。多種多様な山菜を揃え、調理法を増やし、現在の山菜料理を確立していきました。
―― 山菜を楽しめる時期や注意点はありますか?
山菜が採れる時期は4〜6月。それ以降も、山菜の花が食べられたりします。代表的な採取エリアは、沢や山、湿地など。林のバランスがよく、適度に日のあたる場所にたくさん生えてきますね。
採る際の注意点は、根っこまで採らないこと。葉物は根っこから上を摘むように採ります。こごみのような株の山菜は、外側のみ採って真ん中を残してあげる。そうすることで、翌年も同じ場所に山菜が生えてきます。
山菜の見分け方は、代表的なものだとクワダイという人気の山菜。茎の中が空洞で、採る時にぽっぽっと音がするので私達のエリアでは「ドホイナ」と呼んでいます。偽物はその音がしないので、音がしたら食用で、音がしなかったら毒草。
他にも、イチリンソウとニリンソウという山菜があり、花の形はほぼ一緒ですが、花が一輪の場合は毒草。茎から2つに分かれていたら食用。ですが、中には毒草との判別が難しいものもあります。
山菜採りに行く際は、必ずベテランの人と一緒に行くようにしましょう。
―― 葉物の山菜の基本的な処理や調理の仕方を教えてください。
山菜は採取後すぐの下処理と調理がとても大切です。そうすると、アクが少なく新鮮な味が楽しめる。きれいな軟水で茹でて余計なアクを取り、その後熱を冷ますために冷たい軟水にさらす。すると、サクサクとした食感のおいしい山菜を味わえます。
人間が生きる上で、季節を感じることはすごく重要です。京都の暮らしに近い考え方で、山菜も歳時期のサイクルに合わせて食べる。この地域は積雪が多いので、一般的な二十四節気より約2、3ヶ月遅れます。なので、この辺りは天然の二十四節気で料理を構成しています。
例えば、山形は盆地で夏は猛暑になる地域もあるので、体温を下げる食材を摂る。栄養を摂りたい時は、ミズの根っこを叩いてとろろにし、一緒に採った山椒とご飯を食べたり。ミズの実が採れる時期は山ブドウも採れるので、山ブドウを絞って一緒に漬け込んだり。季節の山菜同士を合わせるのが一番のポイントです。
初夏におすすめの山菜はミズ。シャキシャキとした食感が特長のポピュラーな山菜です。それをきゅうりと少々の生姜と塩で乳酸発酵させ、浅漬けにしたり。山菜は、難しく考えずに気軽に食べてみることがすごく大事。
スーパーで売っている山菜をサラダに加えたりと、普段の食事に気軽に取り入れてみてください。すると、山や地方にだんだん興味が湧いて、足を運んでみたくなると思います。
―― 佐藤さんが考える、山菜の魅力やおもしろさはなんですか?
山の四季は、文化的な京都より体験的で直球です。空や山の色合いのコントラストや植物の変化で微妙な四季の変化を感じ取れる。山菜も、食べることによってダイレクトに山の物語を感じられる。
出羽屋の山菜料理で最初に食べていただく、くるみあえ「ハイゴロモ」の味は94年間変わっていません。それを食べると、山へ来たことを実感するんです。年6回ぐらい来てくださるお客さんも、山菜を食べて四季を思い出したいとおっしゃいます。
今、日本は四季を感じにくい社会です。そんな中、一年を通して山菜料理を味わうと、季節の体感がより鮮明になると思います。